ある親子・・・

2004.6.22

1年前の春です。
小学2年生の女の子がうちの教室に入会しました。

その子は、その前の年にPTNAコンペティションに初参加、
ほんのコンマ数点足りなくて(お母さん曰く)本選に進めず
親子して大泣きの挙句、ピアノを辞めてしまったのだそうです。

その後、広島に転勤となり、
環境も変わり、もう一度チャレンジしてみたい・・・
という気持ちが強くなり、
うちに来られたとのことでした。

まずはレッスンの進め方を決めるために
一度来て頂きました。

もちろん半年も弾いていないのだから
テクニックが落ちているのは仕方ないとは思っていましたが・・・

なんと、全く楽譜が読めないのには驚きました。

どの音を指差しても、首をかしげたまま出てきません。
リズムも・・・全くわからない・・・

何年も習って来たと言うのにこういう状態の子って
結構多いのですが、
コンペ経験者が?・・・どうして?と思いました。

お母さんに「昨年はどうやってコンペの曲を弾いたんですか?」
と聞くと
「私が全部教えました」との答えでした。

手取り足取り、付きっきりで教えられたのだと思います。

丁寧に・・・お母さんにはお話をしました。

今はそれで何とかなっても、将来的には・・・
何ページにも渡る曲を、自分で読譜せずにお母さんに弾き方を教わるのは
ほぼ不可能だと思います。

コンペはいつだって受けられる。
今この子に必要なのは、自分で楽譜が読めるようになることだと思います。

私の目標はいずれ生徒が、お母さんも私も必要とせず、
自分の力でピアノを楽しむことができることです・・・と・・・

次の週から、とにかくあらゆる手段を使って
自分の力で楽譜が読めるようになるトレーニングをスタートしました。

教本も、がくーんとレベルの低いものを使い
自分の目で楽譜を読み、演奏していく・・・ということを
繰り返していきました。

最初はおっかなびっくりでしたが、だんだん慣れてきて
短い曲なら楽譜から目を離さず、
しっかりと演奏に繋がるようになってきました。

彼女の顔が、とても自信に満ちてきたように見え、
かなりスピードアップして曲も進めて行き始めた頃・・・
確か一月半くらい過ぎた頃だったと思いますが・・・

いつも後ろで聞いておられるお母さんが
つかつかと私のところに来られました。

「あの・・・先生。うちの子は、その本が好きじゃないようです。
これを使って下さい・・・」

それは、前年にコンペに出たときの
課題曲が入っている楽譜、数冊でした。

もちろん
「今はその時期ではないです。
 お話したとおり、今は読譜力をつけることが
 一番だと思っています。
 私は今のやり方を変える気はありませんので・・・」
と、きっぱりとお断りしました。

数日後、お母さんが来られました。
「読譜中心のレッスンは、本人が嫌だと言います。
 教室を辞めさせてください。」

もうその時には私も何も言いませんでした。
「わかりました」とだけ・・・

どうしてもわかっていただけないのなら、仕方ない・・・
でも私は、いくらお母さんのご要望でも、
本意でないレッスンはできないので・・・

そして、一昨日・・・コンペの会場で
その親子の姿を見ました。

結局、コンペに参加させてくれる先生を見つけられたんだな・・・

それがお母さんの願いなら、良かったのかもしれない・・・

ただ・・・発表のボードには
彼女の名前はありませんでした。

また・・・大泣きの挙句、ピアノを辞めてしまわれるのかな・・・

ある先生のHPにこんなことが書かれていました。

子供の顔が全部違うように
開花の時期も、それぞれ違うんだから・・・と。

どうしてそんなに結果だけ急がれるのか・・・

子供の人生は、まだまだ長いのに・・・

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